コラム

2013年11月11日

「新型うつ」を軽視する風潮の危険性

「新型うつ」は、従来のうつ病とは異なったうつ病と言えます。

  (1)仕事では抑うつ症状を訴え、休む傾向にありながら、余暇になると楽しく過ごす
  (2)自責感に乏しく、他罰的である
  (3)人格的に未熟で、規範や秩序、他者への配慮に乏しいなどの特徴があります。

こうした特徴を見ると、規範や秩序、他者への配慮を重んじてきたかつての日本人にとっては理解しがたく、共感しがたいのは当然でしょう。
振り返ると、従来の「うつ病」も数十年前には「うつ病なんて単なる甘えだ」ととらえられることが多く、なかなか認知されませんでした。それがようやく「うつ病とは病気なのだ」という理解されるようになり、企業もその対策を打ち出すようになってきました。そこに同じ「うつ病」という診断のもと、従来の「うつ病」とは異なる「新型うつ」が登場してきたのです。今度のうつ病には「単なるわがままではないか」と見られる面があります。企業側がどのように対応すればいいのか混乱し、「新型うつ」に対して軽視した対応をとってしまうのもやむを得ない面があるように思います。

ただ現実には、「新型うつ」を発症する人たちが次々と出てきています。彼らは決して仕事能力が低いのではありません。人格的に未熟な面があり、傷つきやすく、自分の嫌なことに対して耐える力が乏しいのです。格段の配慮を要するこうした人たちに対して、企業側もどのように対応すればいいかがわからず、困っているのです。感情的に見れば、こうした人たちを排除する方向に考えることもありうるでしょう。しかし、彼らを軽視し、排除するだけでは、かなりの人材を生かせなくなるというのがこれからの社会でもあるように思われます。

もし、私たちが一人ひとりの人生に心を配り、社会に生かしていこうとするのであれば、彼らへの理解と配慮を見直す必要があります。そのためには、「新型うつ」の症状と彼らが持つパーソナリティの特徴を理解することが必要です。彼らを生かすためには、しばしば環境調整が必要です、また、人格を成熟させていくための関わりや指導も必要となってくるでしょう。一人ひとりの人の心を救い、生かす社会を作るためには、感情的に彼らを軽視する心を諌め、一段の理解と配慮を考えていく必要があるように思います。

 


2013年11月11日

イライラとうつ

「うつ」だという方と話している中で、「イライラする」という言葉を聞くことがあります。
そんなとき、私はふと「?」と思います。

一言で「イライラする」と言っても、いろいろなイライラがあります。
不安や焦燥感が強く、落ち着かないといった意味のイライラ。
やたらとむしゃくしゃする、人に対して腹が立つという意味でのイライラ。

前者のイライラは、うつ病によく見られるイライラです。
エネルギーがなくなって疲れ、心の余裕がなくなったために起こるイライラです。

しかし、後者のイライラはちょっと質が違います。
人に対して攻撃的な思いを持つことができるほどエネルギーがあるというイライラです。
エネルギーはなくなっているのではなく、むしろ、エネルギーはありあまっています。
そのエネルギーをうまく発散できずにマイナス方向に向けてしまっているのです。

このような人も「よく気分が落ち込むんです」と言われます。
確かに、広い意味でそれはうつかもしれません。
一時的なうつ状態ですね。
ただうつ病かというと、それについては「?」がつきます。

なぜなら、うつ病というのは基本的にはエネルギーがなくなった状態です。
気分が落ち込み、やる気がなくなり、食欲もなくなり、何に対しても関心が持てなくなり、楽しかったことも楽しく感じられず、悲観的にばかり考えてしまう。
すべてエネルギー量が低下しているために見られる症状です。

それに対して、他者に対して攻撃性を持ったイライラのある人は、エネルギーがあります。
ですから、このような人にもし、うつ病の人と同様に休息を促せば、ありあまったエネルギーはマイナスの思いを伴った毒となって体中を巡り、さらに調子を悪化させます。
休息しているのだけれど、周囲の人に当たり散らしてばかりで気持ちが落ち着かない。
こうしたことはよくあります。

ですから、こうした人が「うつだ」と言う場合、こんなふうに話します。
「確かにうつかもしれませんが、いわゆるうつ病ではないと思います。
イライラするということはそれだけエネルギーがあるということです。
休息するよりも、何か動くようにしてエネルギーを使うようにしていった方がいいと思います。
水だってじっと瓶(かめ)にためたままでいると、腐ってしまいます。
水は流してこそ透き通ったきれいな状態を維持できるように、エネルギーも使っていった方がいいと思います」

うつだと言っても、いろいろなうつがあります。
エネルギーがなくなった状態にあり、休息と薬物治療を必要とするうつ病。
ありあまったエネルギーをマイナスに向けてしまい、自らを毒に冒(おか)していくうつ。
この見極めが大切です。

後者の場合には、うつといってもエネルギーがあることを自覚してもらうことです。
その上で、運動をしたり、仕事をしたりしてエネルギーを使ってもらうことです。
エネルギーを発散させることです。
その上で、もし前向きなことに気持ちを切り替えられるなら、何か目的を持って行動していくことが望ましいと思います。

今まで気力がなかった人がイライラを感じるようになったなら、それはある意味、よい兆候です。
エネルギーが回復してきているのですから、あとはそのエネルギーを前向きなことに使っていくとさらに元気になります。

イライラということについては、エネルギーといった面から見るとまた違った見方ができるのではないかなと思います。

 


2013年11月11日

うつ病の人への声のかけ方-「うつ病への対応⑫」-

「うつ病の人にどのように声をかけたらいいのかわからない」
家族や職場の上司の方からよくそんな疑問を投げかけられます。

これまでに書いた「うつ病への対応」のコラムを読んでいただくと、うつ病がどんな病気であり、どんな状態にあるのかが大体わかると思います。
そうすればどのように声をかければいいのかということは、何となくわかってくるのではないかと思います。

それでもなお現実には、どのように声をかければいいのかわからないという方がおられると思います。
そこで、ここでは最低限、心すべきポイントをいくつかあげたいと思います。

1. 余計な声かけはしない
「どのように声かけをしたらよいのか」ということに対して、余計な声かけをしない。
まずはこれが原則です。

以前にも述べたように、うつ病の人への関わりは40℃の高熱がある人への関わりをイメージしてもらえると、ほぼ的確なものになります。
もしその人が40℃の高熱があるとしたら…、そっとしておいてあげるのが一番です。
余計な声かけをしないで、そっと休ませてあげることです。

40℃の高熱があるのです(そのように考えるべきなのです)から、仕事に関する連絡などを避けるべきなのは言うまでもありません。

2. 説教しない、励まさない
これはうつ病のことを知っている人なら、誰もが認める大原則です。

しかし、うつ病のことを理解していない人は、しばしば説教をしたり、励ましたりします。
「甘えているだけじゃないか?」
「現実から逃げているんじゃないか?」
「気持ちの持ちようじゃないか?」
「根性が足りないんだ」
「情けないヤツだ」
こんなふうに考えてしまうので、説教や励ましを繰り返します。

うつ病の人の多くは頑張れるのだったら頑張りたいのです。
やれるのだったらやりたいのです。
けれども、頭が回らない、気持ちがついていかない、体が動かない。
自分でも「一体、どうしたのだろう?」と葛藤しているのです。

全く行動できない状態にある人に説教や励ましをするのは論外です。
身体障害で足が全く動かない人に
「どうして歩こうとしないんだ」
「お前は甘えているだけなんだ」
という人がいたなら、
「おかしな人だな。
この人は障害というものを理解できないのだろうか?」
と思うでしょう。

うつ病の人に対しても同じことなのです。
うつ病は、ある意味、一時的な心の障害なのです。
動きたくてもすぐには動けないのです。
やりたくてもやれないのです。

最近は例外もありますが、うつ病になる人の多くは真面目で、自分を責めるような性格の人が多いですから、うつ病になったことで、すでに自分を責めています。

そこに、説教や励ましでプレッシャーをかけたなら、
「本当にいっぱいいっぱいだけど、まだ頑張れと言うんだな。
しかし、本当にもう動くことができない。
情けないなあ。
これ以上やれと言うなら、自分には無理だし、そんな自分がいたら周りにも迷惑をかけるだけだ。
もう死ぬしかない」
そうした気持ちに追い込んでいきます。

うつ病を悪化させ、最悪、その人を自殺に追い込むつもりでないというのであれば、説教や励ましは決して行ってはいけないことです。

3. 「粘ってくださいね」
実際にうつ病の人に声をかけるときには、
「無理しなくていいからね」
「今は何も気にせず、ゆっくりと休んでください」
こうした声かけが一般的で、的確なものです。

しかし、本当にうつ病で苦しんでいる人の心に寄り添うなら、
「何とか粘って一日一日過ごして下さいね。
今はそれだけで十分ですから」
こうした声かけこそが、苦しみの中でいっぱいいっぱいの状態にある心に響く言葉です。

本当にうつ病で苦しんでいる人にとっては、今日一日過ごすことだって大変なことです。
自分自身を責め、将来の不安に脅え、心は今にも押しつぶされそうになっています。
そうしたときには、ただ「無理をしないで」という声かけを超えて、「何とか粘って過ごして下さいね」という言葉の方がより的確で相手の心に伝わると思います。

 


2013年11月11日

「仮面うつ病?」-「うつ病への対応⑪」-

以前、私はある病院で心療内科医ではなく、一般内科医として診療をしていました。

そのときにある60才くらいの女性が診察に来られました。
その方の症状は、頭痛や肩凝り、胸の息苦しさ、疲れやすさ、手足のしびれといったものです。

血液検査やレントゲン、心電図などの検査所見は全く異常ありません。
カルテにはそうした訴えをひとまとめにして“不定愁訴”と記載され、症状に対しては鎮痛薬などを処方するといった対症療法(表面的に症状だけを抑えようとする治療で、根本的な治療方法ではない)がなされていました。
その方は、何と20年近くもその病院でそうした治療を行っていたのです。

私はもともと心療内科や精神科が専門です。
ですから、この方に出会ったときにふと思い浮かぶ病気がありました。
「もしかすると、この方は『仮面うつ病』ではないだろうか?」

仮面うつ病とは、ゆううつだとか、やる気がしないとか、何に対しても興味や関心が感じられなくなったというような精神症状は見られず、身体症状だけが見られるうつ病のことです。
全身倦怠感、易疲労感、不眠、食欲不振、動悸、めまい、胸部圧迫感、息苦しさ、肩こり、筋肉痛、頭重感、頭痛のほか、様々な身体症状が見られます。
これらの症状を見ると、とてもうつ病だとは思えません。
ですから、本人は、まず一般内科や耳鼻咽喉科、整形外科などを受診されます。
しかし、検査をしても何も異常は見つかりません。
ごく一部の勘のいい先生は、
「もしかすると、心の病気ではないだろうか?」
と考え、心療内科に紹介します。
けれども、多くの先生は知識不足でそうしたことを考えつきません。
どうしたらよいのか対応に行き詰まった末に、仕方なく症状を緩和することだけを目的とした対症療法を行うことになるのです。

私が出会ったこの方もそうした治療で20年近くその病院に通っていました。

そこで私はこんなふうにお話をしました。
「実はこうした体の症状が、うつ病によって起こっていることがあるんです。
絶対とは言えません。
ただ、もしうつ病であれば少量のうつのお薬を飲むと、今まで治らなかった症状が劇的に治ることがあります。
治るかどうかは治療をやってみなければわかりません。
しかし、長い間症状が続いて苦しんでおられるし、一度、こうした治療をやってみてはどうかと思うのですが…」
すると、その方は素直に
「一度、お薬を飲んでみます」
と言って、薬物治療を開始することにしました。

数週間後、その方が来院されました。
すると、すっかり明るい表情になっています。
「あれだけ続いていた頭痛が全くなくなりました。
胸の息苦しさや手足のしびれもありません。
本当に楽になって、家事とかもできるようになったんです」

その後も半年間ほど治療を続け、お薬も徐々に減らし、治療もほぼ終わりに近づいた頃、その方は笑顔で突然、こんなことを言われました。
「これでようやく沖縄に帰れます。
今までずっとしんどくて帰れなかったんですが、おかげで帰ることができます」
この方はずっと体調がつらくて、生まれ育った沖縄に帰ることができず、その地で暮らしておられたのです。
「仮面うつ病」と気付いたこの治療で、この方の人生が変わったのです。

「仮面うつ病」はまだまだ一般科の先生には認知度の低い病気です。
でも、ちょっと知っていれば、わずかのお薬による治療で劇的に治りうる病気です。
こうした心の病気もあるということを心の片隅にとめておいていただければ、みなさまの身近な方の意外な助けになり、その方の人生を救うことになるかもしれません。

 


2013年11月11日

休息期と回復期の違い-「うつ病への対応⑩」-

うつ病になって医者から仕事を休むようにと言われ、いざ仕事を休み始めても「体のために散歩くらいした方がいいだろう」と思って運動をする人がいます。
しかし、早く治したいのであれば、これは明らかによくない行動です。

うつ病とは、すべての活動エネルギーが低下した状態です。
だから、休息が必要になります。
それに対して、散歩はエネルギーを消耗させる行為です。

うつがひどいときに頑張って散歩をすると、さらにうつを悪化させます。
実際にうつにもかかわらず、無理をして散歩をしていたという人に
「散歩してどうでしたか」
と訊ねると、
「それがすごく疲れるんです。
疲れてしまって、その後何日かは気分もより落ち込み、まったく動けなくなりました」
と言われます。

うつ病にも時期や段階があります。
うつの最も状態の悪い時期というのは『休息期』です。
無理に「~しなければならない」と思って、散歩などの運動をしてはいけません。
“怠け者”のようにただひたすらに休息に徹することです。

一方、十分に休息して「退屈だな」「そろそろ何かしたいな」という気持ちになってきたなら、それはエネルギーが回復してきている証拠です。
『休息期』を終え、『回復期』に入ってきたということですから、むしろ散歩などの運動を積極的に行い、徐々に体力をつけていく時期です。

但し、まだエネルギーは十分ではありません。
『行動は自分のイメージしている7割程度に抑える』
ことです。

ここで調子に乗って頑張りすぎると、すぐに疲労感を感じます。
それに伴って再び気分の落ち込みなどを感じるようになります。
うつはよくなってきていたのですが、エネルギーが不十分にもかかわらず、頑張りすぎたことで一時的に、再びエネルギーがなくなったのです。

自分のやりたい行動の7割程度に抑え、無理をしないで運動を続けていると、徐々に体力も回復してきます。
この段階は、しばしば数ヶ月~半年程度かかることがありますが、決して焦らないことです。
焦らなければ、必ず時間とともに回復してきます。

治すためには順序があります。
家を建てるにも、まず土台を作り、その上に家を建てます。
もし土台が固まっていない状態で焦って家を建てようとすれば、その家はあるレベルで崩れてしまいます。

うつ病の治療でも、休息期に無理して本来は回復期に行うべき運動を行っていると、結局はうつをより悪化させることになります。
十分な休息によって土台を作り、その土台ができたことを確認した上で、運動というリハビリを行って体力を回復させ、健康を取り戻すことです。

「うつ病のときの行動は休息期と回復期で異なる」ことを知っていると、よりスムースな回復を目指すことができると思います。

 


本当の自分に目覚め、幸せに生きるダイヤモンドの心の医療