コラム

拒食症治療を始める前の約束①~「正直に話す」~

2014年01月30日

いざ拒食症治療を始めるにあたっては、いくつかの約束をします。
もちろん、いくら約束をしても破られることはあります。
ただ約束をすることで、心の中に楔(くさび)を打ち込むことができるのは確かなことです。

私が治療を開始するにあたって最初に提案する約束は『正直に話す』ことです。
なぜ『正直に話す』ということを約束するのでしょうか?

現に拒食症になって過ごしてきた人にはわかるはずです。
治療者に「これだけの食事をとるようにしなさい」と言われ、次の診察に訪れたときどんなふうに話すか。
「頑張りました」
「何を?」
「言われたように食べるようにしました」
拒食症の人は病気の自己の行動がばれたくありません(いえ、本当は気付いてほしいんですが、気付かれてしまって病気の自己の行動を制止されるのが怖いのです)。
あるいは、他人に対しては「いい子」でいたい。
治療者に見捨てられたくない。
そんな気持ちから診察でしばしば嘘をついてしまいます。
一番多いのは、部分的に本当のことを言いながら、その中に嘘を混ぜることです。
もし正直に話せる状態にある人がいたら、それだけでもすごいことですね。

この「嘘をついてしまう」という行為は、すべて病気の自己のせいです。
これがわからないと治療者はだまされてしまいます。
それに気がついたときには「なぜ嘘をついたのか」と本人を責めることになり、そこで治療は行き詰まってしまいます。

治療者との関係が悪化し、治療に行き詰まる最も悪いパターンですね。
この場合、本人は悪くありませんよ。
病気の自己の行動を見破れなかった治療者の方に問題があります。

「いかにして拒食症の治療をスタートするか?」で述べたように、治療者は病気の自己のわなを見破らなくてはなりません。
その第一歩が「嘘をついてしまう」という病気の自己の行動です。
このわなに対する防衛線として「正直に話す」ということを約束するのです。

「『正直に話す』ことを約束しましょうね」なんて言葉かけだけではだめですよ。
もっと具体的に話し、安心感をもってもらわなくてはなりません。
「『例えば、次回までにこれだけ食べるように』という話をして、もしそれができなかったとしても、そんなことはよくあることだとわかっています。
もし食べられなかったときそれはだめだけれど、それよりもそのことを正直に話せたことの方をずっと評価します。
食べられなくても、どうしても『食べられた』とごまかしたくなる。
ごまかし続けてもいずれはばれるけれど、それをごまかさずに正直に話せたなら、それだけでも半分病気に勝っていると言える。
だから、『正直に話す』ということだけは守ってね」
こんなふうに話します。

「食べるという課題ができなくても治療者は見捨てない。
そんなことよりもありのままの自分を見せて正直に話すことを評価し、受け入れますよ」
というメッセージを送ってあげることが大切だと思います。


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