悩み相談と言えば、おそらく誰でもほとんどの人が、人の相談に乗ったことがあるかと思います。
人から相談したいって話を持ちかけられると、何となくそれに応えたくなるのが人情ですよね。相談に乗って、少しでも役に立てればこちらも嬉しくなります。「少しでも心が楽になってもらえて、本当に良かった」ってね。そんなふうに思うこともあります。
ただ一方で、なかなか難しい相談もあります。「本当に難しいな。どうしたらいいんだろう。全くわからないな」ということもあれば、「言っていることはわかるけど、どんなふうに言ってあげたらいいんだろうか」ということもあって、相談を持ちかけられたこちらも悩んでしまうようなこともあります。そんなときには「聞いてあげるしかできないけど、ごめんね」とか「そうなんだ。本当につらいよね。大変だよね」とかしか言ってあげられないこともあります。ただこれだけでもまずは十分じゃないかなって思います。
相談の基本は『傾聴』と『共感』と言います。相手の話をよく聞くこと。悩んでいる本人のしんどさに共感すること。要するに、その人に寄り添ってあげることですね。横にいてあげることですね。それだけでも相談にきた人の心がいくらか軽くなることがあります。
ただ人によっては、相談にくる人に対して「それじゃダメだよ」「相手も悪いかもしれないけど、あなたも悪いんじゃないの」と言ったり、「あなたはもともとそんなふうだから、こうなったんじゃないの」と言ったりすることがあります。こんなふうに言われると、ほとんどの人は「この人に相談するんじゃなかった」と思いますよね。これはね、言っている人は気付かないものなんですが、言われた人はそう思います。言っている人からすると、「この人は何が問題かがわかっていないから教えてあげないといけない」とか、「この人自身にも問題があるから指摘してあげないといけない」と思って助言します。「自分は正しいことを言ってあげているのだからいいでしょう?何かおかしいですか?」と思っているわけです。
しかし、悩み相談の場合、まずはその助言した内容が正しいとか間違っているというレベルの話ではないことが多いんですね。悩みの相談にきている人は多かれ少なかれ、心が弱っているわけです。正しいこと(本当に正しいかどうかはわかりませんが…)を述べる前に、その人の心を軽くしてあげる方が大切なんです。実はね、相談にくる人はもちろんその答えを求めているわけですが、それ以上に悩みで重くなっている心を軽くしたくて相談にきていることが多いんです。
言っていることが正しかろうが何だろうが、その人を否定したり、さらにその弱った心にとどめをさしたりするなら、それは相談にきた人の心の救いになりません。褒められるよりも厳しく育てられることが一般的だった一世代前の人であれば「厳しいけど、私のことを思って言ってくれたのかな。ありがとうございます」ととらえる人もいたかもしれません。しかし、現代においてはそのような人はほとんどいません。むしろ不愉快になるだけでしんどさが増すんじゃないかって思います。人によってはさらに落ち込み、人によっては「つらくて相談をしているのに、何でそんなことを言われなくっちゃいけないんだ」と言って怒り出すかもしれません。
ですから、相談に乗るときはまず何よりも『その人を裁かない』、いやそれ以上に『その人に徹底的に味方する』ことを心がけるといいんじゃないかなって思います。
そのためには相談内容に集中するだけではなく、心の中でどこか余裕をもって、その人の心のしんどさに思いを向けておくことが大事じゃないかなって思います。「いろいろあるようだけど、とにかくこの人はしんどいんだな」「この人はこの人なりに一生懸命に頑張っているんだな」っていうような思いを向けることが大事じゃないかなって思います。あまり相談の内容だけに集中すると、それに答えることに気がとられて、相手の人がどんな気持ちでいるかを忘れてしまいます。特に “常識”にとらわれている人は、‟常識“にとらわれた答えを導き出して相手を裁くような言動をとってしまい、相談にきた人の心の救いにならないことがあります。
最後に、今述べたことを逆の立場から考えてみてください。
もしあなたが人に自分の悩みの相談をするとき、その人が“常識”に基づいた正論を語る人だとわかっていたら相談をするでしょうか?藁(わら)をもすがるような思いでいるときには、相手がどんな人かを判断する余裕もなく相談してしまうかもしれませんが、“常識”的な当たり前のことしか言ってくれないとわかっていたら相談なんてしないんじゃないかなって思います。一方、どんなときでも味方になってくれて、気持ちに寄り添ってくれる人だとわかっていれば、悩みに答えてくれようがくれまいが、話を聞いてほしいと思うんじゃないかなって思います。その優しさに心が救われるからです。要するに、悩み相談のコツってそうしたところにあるんじゃないかなって思います。
月刊 『公営企業』 | 一般財団法人 地方財務協会
https://www.chihou-zaimu.com/koueikigyo