コラム

あなたの生き方は自分軸か?他人軸か?

 人には心や思考というものがあり、おそらく多くの人は自分自身の判断で物事を感じたり、考えたりしていると思っているのではないかと思います。

 しかし、よく見ると意外にそうではありません。自分自身の判断で物事を感じたり、考えたりしているというよりは、不安や恐怖感、あるいは妄想のような病的な思考に振り回されて、ただ反応しているだけの人って多くいませんか。一番典型的なのは、まわりの人が自分のことをどのように見ているのか、どのように言っているのか、こうしたまわりの人の視線や言動ばかり気になってしまう人です。言い換えれば、他人の視線や言動に自分の価値観をおいて、自分の主体性をなくしている人です。そうではありませんか?人の視線や言動が気になる人は日夜、そのことばかり意識しています。人から否定されたり、怒られたりするとそのことが頭から離れず、気持ちをコントロールできなくなります。

 それでもまだ人の視線や言動に反応しているだけであれば一時的なことで終わりますが、ずっとこうしたことを考えていると実際に人からどう見られているか、どう言われたかという事実があろうがなかろうが常にそうしたことに心が脅かされ、様々な心の病に侵されるようになります。心の病の主たる原因は不安・恐怖感にありますが、その不安・恐怖感の主たる原因は、他人の視線や言動に自分の価値観をおいていることなんですね。要するに、自分の意志で主体的に生きているつもりでいても、いつのまにか主体性を失って他人軸となり、自分の人生の主導権を他人の言動に渡してしまっているんです。あるいは、自分の中で作り上げてしまった不安や恐怖感に委ねてしまっているんです。そうすると、自分の気持ちや考え方をコントロールできなくなり、苦しくなってくるんですね。

 では、他人軸ではなく自分軸で生きている人ってどんな人でしょう?その真の姿はメディアの情報だけではわかりませんが、メジャーリーガーの大谷翔平氏などは自分軸で生きている人ではないかなと思います。彼の言動を見ていると、周囲の人がこう言ったから自分がこうしたということはなく、むしろまわりの人に何と言われようともそれに反発さえもせず、ただ自分の中で決めた価値観に基づいて行動し続けています。純粋に人に喜んでもらいたいと思って行動しても、それは自分の主体的な思いで人に喜んでもらおうとしているのであって、人からどれだけの「いいね!」をもらえるかを考えて行動しているようには見えません。人の視線や言動に対してはどのように言われようともむやみに反応せず、一定の距離をとっているように見えます。これは他人軸で生きている人からすれば、考えられないような驚異的な態度ですね。

 ただ人って幼少時から他人軸で生きていたのかっていうとそうではありませんね。幼少時も親の顔色を見て行動するということが多少あるかもしれませんが、基本的には自分軸で、人の反応がどうであろうとも自分のやりたいことをやって、自分の嫌なことはやろうとしません。それが育てられる過程の中で親や先生から「こうしなくてはいけない」「こうあるべきだ」と言われ、「自分の思った通りにばかりしていたら人に嫌われるよ」とか「そんなことをしていたら大人になったら困るよ」とか言われる中で、いつのまにか不安・恐怖感が培われてきたのではないかと思います。親や先生などの大人は彼等なりに子どものためを思って言っているのでしょうが、その視線は子どもの行動に向いていて、子どもの心を見つめる視点に欠けているような気がします。もし子どもの立場に立ってその心に目を向けたならば、まずは「そんなふうにやりたくなるよね」「自分の思いを出せるってすばらしいね」ってありのままの子どもを認めてあげるような言葉を先に発することができるのではないかと思います。その上で、「ただね、あなたはこういうふうに思って行動しているかもしれないけれど、こうしたことも大事だからそんなふうにもできるといいね」といったように声かけをしてあげられるかもしれません。このように自分を認めてきてもらった子どもは、大人になっても自分軸で生きていける可能性が高くなります。これは親が子どもに与えることのできる最大の財産かもしれません。

 しかし、気付かないうちに他人軸で生きるようになり、今がしんどく、苦しくなっている人はどうすればいいのでしょうか。まずは自分が他人軸で考え、行動しており、不安・恐怖感、被害妄想などに反応しているだけであることに気がつくことです。気がついていない人が意外に多いのです。そして、今の自分の環境を受け入れ、自分で自分を認め、肯定することを心がけることではないかと思います。「あなたはそれでいいんだよ。そして人がどう評価するかは関係なく、自分がやりたいと思うことをやればいいんだよ」と自分に言ってあげることではないかと思います。自分軸で生きている人は自ずと人をひきつける魅力が出てきます。ですから、他人軸になって人からの目先の評価を手に入れることは必要なくなります。ただ自分軸を持つ過程では、他人から離れ、孤独の時間が訪れるかと思います。その孤独を恐れずに、自分軸になるための必然の孤独だと受け止めることです。自分軸で生きられるようになれば、他人に言動に脅かされることが減り、穏やかに生きられるのではないかと思います。

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