コラム

「絶望」から浮上するには?

 絶望というのは、何をしてもどうにも抜け出すことができないから絶望なんだと思います。気分はどん底まで落ち込み、本気で死んでしまいたいと考えてしまうこともあるかもしれません。逆に、人によってはわけもなくイライラして、誰彼構わずにちょっとしたことでも当たり散らしたくなります。

 こんなときは誰か寄り添ってくれる人がいればと思いますが、不思議とこうしたときに限って自分のまわりには誰も相談できる人がいません。誰か連絡をしてきてくれないかななどと思っても、みんな第六感でも働いているのか、元気だったときには繋がっていた人からも、誰からも全く連絡がありません。たまに話せる人がいてもあまり役に立たないような助言しかしてもらえず、心は救われません。孤独とともに本当にどん底です。
絶望のときには、心の中に岩のかたまりのような重しがのしかかっています。元気なときであれば「まあいいか」、「仕方ないな」、「なるようになるだろう」と考えられていたのが、「でも…」、「なんで?」、「どうして?」という言葉とともに同じ思考が何度も何度も頭の中を駆け巡ります。普段であれば気にならなかったようなことも気になります。いろいろと分析して解決策を探そうとしますが、この分析によって解決に至ることはなかなかありません。分析するとむしろいろいろなことが気になってきて思考が拡散し、余計に感情がかき乱され、袋小路に入ります。

 絶望に至るには何かきっかけがあります。それは何か思いもかけない出来事だったり、ある特定の人との関係だったり、あるいは自分自身の問題だったりします。絶望のときにはそのきっかけとなった相手のことが許せない、あるいはその状況に至った自分自身が許せないということがあります。絶望には、その根底に許せないという気持ちがあるのではないかと思います。
絶望のときは、何かが自分を脅かしています。その脅かすものが心の中で大きくなって、自分の人生のすべてをダメにするのではないかという恐怖感があります。そして、その恐怖感から抜け出すすべが見つからず、次第に気持ちが衰弱して心のエネルギーがなくなっていきます。その結果、絶望に陥ります。

 自分の人生を振り返っても、絶望の淵にいた時期がありますし、この仕事をしていますとしばしば絶望の最中にいる人に出会います。実際、そうした絶望から脱するにはどうすればいいのか?それはとても困難なことだと思いますが、ここまで心療内科・精神科医として仕事をしてきて気付いたことがあります。

 脱するための大きな味方は「時間」です。「時間を耐える」ことができれば、人はその脅かされるものへのとらわれが薄れ、次第に絶望の淵から浮き上がってくることが多いように思います。ただ自分でも気づかぬうちに絶望を深めるような思考をしているときには何年も何年も耐え続けねばならないときもあり、「時間を耐えるって言うけれども、一体いつまで耐えればいいんだ」と思うこともあるのではないかと思います。

 では、耐える時間を短くする方法はないのでしょうか?参考になるのは、人生に成功していると思われる人です。彼らはずっと人生が順調に来ているように見えますが、意外に人生のある時期に絶望的な経験をしています。ただ彼らに共通しているのは、絶望的な状況から脱するのが非常に早いということです。なぜ、早いのか。彼らは速やかに「その絶望的な状況を受け入れている」ようなんですね。なかなか受け入れられないから絶望しているんですが、彼らは「なってしまったその状況についてはもう仕方がない」と受け入れます。人によっては、これは本当に難しいことだと思います。それでも絶望の淵から脱するには、人を恨むのをやめ、自分の運命を呪うのをやめ、まず「その状況を仕方ないものとして受け入れる」ことが第一歩だと思います。

 もし受け入れることができれば、どのようなことが起こるのでしょうか。その状況を受け入れた瞬間、その絶望は自分自身の力で解決できる範囲に入ってきます。なぜなら、絶望的な状況を受け入れられず、「相手さえ変われば何とかなるのに…」、あるいは「もし運命さえ少し違っていれば…」という思いに駆られ、状況をコントロールする力を他者に渡していたために自分の力が及ばず、どうしようもなかったのです。神や仏か何かに助けてほしいと思っても、なぜか神や仏も現実には手を差し伸べてくれないものです。自分自身の力で、自分自身のために、あきらめてその状況を受け入れるしかないのです。とても難しいことですが、その絶望的な状況をあきらめて本当に受け入れることができれば、自分を無力に感じさせていたもの、自分を脅かしていたものは徐々にその力を失い、自分の心の力が戻ってきます。その力で今の自分にできることをやり、遊びでも仕事でも何でもいいので少しでもましな気分で過ごせる時間を増やすように心がけることだと思います。そのようにして一日一日を過ごしていると、いつの間にか絶望から浮上し、気分が変わってきていることに気付くかと思います。自分の心の状態が良くなると人との繋がりも戻り始め、どこからか新しく人生を切り開くチャンスが芽生えてきます。

 絶望のときは本当に孤独でどうしようもない気がしますが、自分の人生には責任を持ち、勇気をもって目の前の状況を受け入れることです。そんな自分に対しては「よく頑張っているね」と認めてあげて、今の自分にできることを行っていれば、気付かないうちにそこから浮上している自分に気付くのではないかと思います。

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