人は誰でも、心の奥底に望んでいる自分の姿というものがあります。明るさ、優しさ、穏やかさ、安心感、素直さ、正直さ、勇気、前向きな思考、賢さ、喜びや楽しみ、自己成長、そうしたことを望む心はその人が生まれながらに持っている本来の姿であり、本当の自分です。その本当の自分でいるために、あるいは、本当の自分自身を見失った人が本当の自分を取り戻し、本当の自分に目覚めるために、まずチェックすべき視点は『心の余裕』だと思います。
みなさんは今、心の余裕がありますか?
いやその前に今、「自分に心の余裕があるかどうか」という視点を持っていますか?
心の余裕があるかどうかということは幸せに生きるためにとても大切なことなので、ここではそのお話をしたいと思います。
まず、心を病んでいる人はみんな心の余裕を失っています。心の余裕がないと必ず心を病むというわけではありませんが、心の余裕のない状態が続くと心を病む可能性が高まります。
では、人はどのようなときに心の余裕を失うのでしょうか?
それは何かにとらわれているときです。何かに執着しているときです。嫌なことや辛いことから頭が離れないとき、心の余裕なんてありませんね。統合失調症という病気になって幻聴や妄想に支配されているときは四六時中、その自分を脅かす声のことが気になって心の余裕がなくなります。体に不調があるときだってそうですね、体のどこかがずっと痛かったり、だるかったりするとその体調不良にとらわれて、心の余裕はなくなります。
また、意外なときに心の余裕はなくなります。どういうときかと言えば、真面目に生きているとき、あるいはやらなければいけないことをやり続けているときです。「えっ、何を言っているの。真面目に生きて、やらなければいけないことをやるなんて当たり前のことでしょう?」っていう声が聞こえてきそうです。もちろん、そうした生き方をしている人がみんな、心の余裕を失うわけではありません。ただいつも真面目に生きなくてはいけないと思っている人はしばしば自分を追い込みがちになります。やらなければいけない、やらなければいけないと思ってそれに追われていると、人は心の余裕を失います。そうなんですね。真面目にやらなければいけないことに取り組むといった真っ当な生き方をしているときに、いつの間にか心の余裕を失い、心を病むかもしれないという落とし穴があるんですね。
見方を変えると、真面目にやらなければいけないことをやっているときって、頑張っているときです。前向きな気持ちで頑張っているときはいいでしょう。しかし、知らず知らずのうちに無理をして頑張り過ぎてしまうと、いつの間にか心身ともに疲れ果てて、焦りが生まれてきます。焦るとそのやらなければいけないことで心がいっぱいになります。心の余裕を失い、心理的には少し危うくなってくるんですね。
ですから、自分自身がしんどいとき、あるいはしんどいということで相談を受けたとき、まずは「心の余裕はあるかなあ?」って見ることが大事です。
例えば、精神状態がうつ病という病的なレベルにまで陥っているとき、あるいは病院にかからなければならないほどの体調不良をきたしているときは心に余裕がなく、「心の余裕を持つことが大事ですよ」と言われてもなかなかそんなふうにはできません。そうした自分の力だけでどうしようもないときには、薬の力を借りることは有用だと思います。薬に対して抵抗のある人はたくさんおられ、かつては私自身も薬を処方することには抵抗のある医者でしたが、薬の力で精神症状や身体症状が緩和すると、心に余裕が出てきます。より早く本当の自分を取り戻し、穏やかな日々を過ごすには、ときとして薬は他には代え難い非常に有用な手段ではないかと思います。
ただ、薬を飲まなければならないほどでなければ、心の余裕を取り戻すには次のように心がけるといいのではないかと思います。
まず、何かに心がとらわれているときには「そうだよね、どうしても同じことを考えてしまうよね。おそらく誰でもそんなもんだよ。普通のことだよ。でもそのわりに、私って本当によく頑張っているよね。生きているだけでも本当によく頑張っている。私って偉いな。本当に偉い、偉い」って今の自分を認めて、褒めてあげることです。自分が正しいとか間違っているとか、やるべきことをやっているとかやっていないかとか、そんな判断基準は必要ありません。それよりも何かにとらわれて心の余裕を失いそうになりながらも頑張っている自分を認めて、褒めてあげることです。そして、ほんの少しでいいので心の余裕を取り戻しましょう。その方が幸せになるにはずっと大切なことです。
また、真面目に頑張り過ぎているときはちょっと立ち止まれるといいですね。そして、意外と「不真面目に生きよう」くらいでちょうどいいかもしれません。目標を達成することよりも「いかに楽しく過ごすか」、「いかに楽に過ごすか」という視点で今日一日の過ごし方を考えてみるといいかなと思います。息抜きすることも遊ぶこともとてもいいことです。そうしてうまくいかなくなることって意外にありません。真面目な人ほど「そんな余裕なんてない」、「そんなことではうまくいかないのではないか」、「ダメな人間になるのではないか」と考えてしまうかもしれません。しかし、楽しく過ごすことも、楽に過ごすことも、遊ぶことも人にとっては必要なことで、「心の余裕を持つことは幸せに生きるために必要なんだ」と頭の片隅においてもらえればと思います。
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