昭和から平成、そして令和へと時代が進むにつれて、人の考え方や価値観は変わってきました。それはこころの問題に対する考え方やアプローチにおいても同様です。
例えば、昭和~平成の初め頃までは、うつ病をはじめ精神疾患を受け入れる風土はあまりありませんでした。精神的なことで挫折し、登校できなくなったり、仕事に行けなくなったりすると「甘えているだけではないか」と言われ、社会から落ちこぼれたようなイメージを持たれることさえありました。ですので、「家で休んでゆっくりした方がいいですよ」と話しても、ご本人が「休むと困るので、もう少し頑張りたい」と言って断ってこられることもありました。一方、休んでもらうと今度は「まわりの人や家族に迷惑をかけてしまって申し訳ない」と言って自分を責めたり、「学校や職場に戻ったときに上司や周りの人にどう見られるか、どう言われるかわからない」といった不安を訴えたりすることもありました。実際に仕事を休むと、会社の上司から「そんなことで休んでもらっては困る」とか「休んでも仕事の連絡だけはとるようにしてほしい」とか言って本人を心から休ませないようにすることが多々あり、いくら主治医が休むことの必要性を伝えても上司らに話が通じないことがありました。
また、精神疾患そのものが理解されておらず、「うつ病」と言うと大変な病気になったようなイメージを持たれてしまい、そのことでさらに精神的に追いつめかねないこともありました。ですので、「うつ病」とは言わずに、方便として「抑うつ状態」とか「自律神経失調症」とかいった言葉を使うことがよくありました。
こうした社会的背景があったので、真面目な人ほどうつに陥っても弱音を吐けず、心療内科や精神科を受診して休むことなど考えられず、自分を追い込んでいくことがありました。その結果、最悪では自殺の危険性が高まるといったこともありました。
当時は、一度決めて一つのことに取り組み始めたなら最後までやり抜かないと何をやってもうまくいかないというような価値観がありました。根性で頑張って、苦しくてもそれを乗り越えてこそ人は成長し、成功を手に入れられるのだという考え方だったように思います。上司の指導が厳しく、叱咤激励するのは当たり前で、あまり怒らないやさしい上司というのは本当に少なかったように思います。青春ドラマでさえも、先生が生徒を殴り、そうしたやりとりを通じてその奥にある愛情に目覚め、本当の人間関係が築けるといった設定でしたので、当時の人は苦しいことがあっても、パワハラのような言動を受けてもそのようなものだと思い、耐えてやり過ごしていました。そして、ごく一部の人だけがそうしたことに耐えられず、病んでいたように思います。
しかし、令和という時代になり、その様相は大分変わりました。まず多くの人は学校や仕事でしんどいことがあると、容易に心療内科や精神科を受診されるようになりました。心療内科や精神科と言えばまだいくらかハードルの高さを感じる人もいますが、特に若い人の間ではハードルが低くなりました。「うつ病」という病名を伝えても抵抗感を持つ人は少なく、方便としての病名を使うこともほぼありません。
精神的ストレスで心身の不調をきたしたときに学校や仕事を休むように提案すると素直に受け入れる人が多くなり、こちらが提案するより先に自ら休むことを希望されて受診する人も多くなりました。また、学校や職場が合わなければ、転校したり、転職したりする人が多くなりました。一昔前は一度就職したなら定年までその会社で働くというのが当たり前という時代でしたので、転職に対するイメージもよくありませんでした。しかし、今はキャリアアップに対する考え方も変わり、一つの会社にしがみつくよりも転職して、より自分に合ったやりがいのある仕事を見つける方がいいと考える人が多くなりました。一つの会社で出世して成功を目指すよりも、家庭や趣味を含めた人生全体での幸せを考える人が増えたように思います。
一昔前の価値観の中で生きている人の中には、今の人たちの生き方を否定する人もいますが、今の人たちの生き方に素直に寄り添ってみるとそこには新しい価値観があり、それは一昔前よりももっと幸せに生きられる道のような気がします。今の時代は一つの価値観で縛られるものではなく、いろいろな生き方が許される時代です。例えば、不登校になれば昔は学校をやめて働くか、引きこもりになるしかありませんでしたが、今は通信制や単位制の高校に転校したり、高卒認定試験を受けたりするといった道などがあり、そのことで大きなハンディを負うこともなく、普通に社会人になっていくことができます。
一見、甘えているように見えても、それは甘えではなく、ある意味、周囲の目に左右されない自分というものがしっかりあって、自分に合った道を生き、そこから人生を切り開いているのです。今の時代は、今の人たちのやり方でうまくやっていけるのです。これからは苦しさに耐えてひとつの場所にしがみつくのではなく、自分を認め、自分に合った場所を求めて楽しく生きんとする時代です。そして、こうした価値観を受け入れる素直さを持った人だけが今の時代についていけるのではないか、今の時代に問題を抱えた人たちのこころをサポートしていけるのではないかという気がします。